彼は同学年で近所住まい。珍しく私と近しい立場にある人だった。  彼に救われた事は枚挙に暇が無く、それは彼にとっても同様であったらしく我々は良い仲間であったと言えるだろう。   ある昼なか、他愛ない会話の途中で「僕たちは二十歳になる前に心中しよう」と彼が提案した。  彼はそれが他愛の無い嘘であるかのように笑ってみせたし、私も私でそれを冗談であるかのように笑い返すことにした。   あえて笑ったのはそれが実は現実的な話である事を理解しているからで、相手を不本意に道連れにしまいかと不安だったからである。  この提案を嘘にしてしまおうか、それとも本当にしてしまおうか。その後の沈黙で考え、私はその提案を了承した。    ところが彼は約束を反故にし、その後私あての遺書やらを残して勝手に死んでしまったし、私は私で暫く良い事があったり悪い事があったりしてついに二十歳の夜を迎えた。   今、手元には誕生日を祝う通知とお祝い品がある。私を気にかけてくれる友人や仲間が居て、恵まれていると嬉しい気持ちになる。それでもなかなか二十歳の実感は掴めない。  物思わぬわけが無いのだろうか。なかなか寝付けぬ理由が初夏の蒸し暑さにあるのか、特別解りはしない。  別に気が落ち込んでいるわけではない。いや、むしろ世を楽しむ計画のため、順当に針を進めているところだ。  案外シャワーを浴びて外の風を入れたのでもう眠れるかもしれない。   ただ、世の中うまくいかないなと思うのである。